23時06分

顔についたうざったい髪の毛を払い取るように自分の気持ちを書き残そうと。

2017/08/13(3):貝とり

潮風が気持ちいい昼下がり。
じいちゃんが腰を悪くしたから、ばあちゃんはその世話でつきっきり。
せっかく遊びに来たのにつまらない。

久しぶりに裏の海の浅瀬に来てみた。
昔はこんなに浅いのに怖がって泳げなかったなぁ。
そんなことを思い出しつつ、手ごろな流木を手に取り岩場へ向かう。
波が当たる岩場にはよくひらべったい貝がくっついていて、これを木の棒でタイミングよく一突きすると、コロンととることができる。
これをじいちゃんは塩茹でしておやつにして食べるから、見舞いの品にしてはしょぼいけど持って行ってやろうと思う。

カンッ、カッ、カッ。
タイミング悪く突くと、貝に固くなられてしまう。
そうなると、貝殻を粉々にしたって絶対に岩からはがせなくなる。
じいちゃんと来ると、すぐボウルいっぱいにとれるのに。

「わぁ、これ君がとったの?すごいね。」
夢中で貝を獲っていたから、人がいたのに全然気が付かなかった。
「お前誰だ?どっから来た?」
「僕、おとといから近くの民宿に父さんと泊りに来てんだ。」
「ねぇ、それ面白そうだから僕もやってみてもいい?」
「あぁ、貝とりのこと?いいよ、その辺から棒拾ってきな。」

カカンッ、カカッ、カカンッ。
貝を突く音が重なる。
「意外と難しいね。」
「うん。」
「これお家に持って帰るの?」
「うん。」
「おいしい?」
「うん。」

カカンッ、カラン、カラン。
地平線がじんわり茜色に染まっていく。
「あ、そろそろ戻らないと父さんが心配するや。」
「あ、そっか。」
「貝とり、すっごく楽しかった。」
「うん。」
「…あ、そうだ。お礼になるかは分かんないけど、これあげる。」
「ここに来る前に見つけた貝殻なんだけど、綺麗だったから拾ったんだ。」
そこらへんで拾えるような何の変哲のない白い貝だったけど、なぜだか私の顔をほころばせた。

「ありがとう。」
「こちらこそ、ありがとう。」

浅瀬を去る背中を見ながら、なぜだか胸がチクリと痛んだ。
名前、知りたかったなぁ。


「貝とり」
2014/08/13 16:39

お題「もう一度行きたい場所」

 

※後日、少しだけ修正入れました